2010年7月11日日曜日

「敵の中に一番大事なお友達が隠れている」ジョイ・コガワさん

 カナダ日系2世の作家、ジョイ・コガワさんが、6月21日の海外協会の定期総会で記念講演しました。コガワさんは前日の20日には南海ラジオの「木藤たかおの日曜プレスクラブ」にナマ出演。父中山吾一氏(大洲市蔵川出身)のことや、自身の文学作品の出発点について語りました。このなかで時代へのメッセージをたずねられたコガワさんは「敵の中に一番大事なお友達が隠れている」とふくらみのある言葉を披露しました。以下、インタビューの採録です。(聞き手はパーソナリティティー・木藤たかおさん)

木 藤 スタジオにはゲストをお迎えしました。カナダを代表する作家ジョイ・コガワさんです。おはようございます。
コガワ おはようございます。
木 藤 グッドモーニングと申し上げたほうがよろしいのでしょうか。日本語は大丈夫でしょうか。
コガワ 少しだけ分かります。
木 藤 お父様が大洲市のご出身。カナダでは大変有名な日系人の作家でございます。いま処女作品の「失われた祖国」(原書名「OBASAN」)を手にしているのですが、これはどういう作品ですか。
コガワ my familyのstoryだけれど、本当のこともfictionも混ざっています。長崎から始め長崎で終わっていて、そのbeginning とendはfictionですが、真ん中のことはカナダの日本人の(本当の)話です。
木 藤 戦争中はカナダの日本人もかなり苦しい体験をされたのでしょうか。
コガワ はい。でも、日本の(中での)苦しみとは比べられないけれど、カナダの日本人はdiscrimination(差別)がひどくて、私は子供のときidentityは日本人だと言われて苦しい思いをしました。
木 藤 カナダというと、そのような差別とか厳しい状態がないというイメージを持っておりましたけれど、やはり戦争中は差別があったのでしょうか。
コガワ そうです。
木 藤 そうですか。やはり随分つらい思いもされてきたのでしょうか。
コガワ そうです。日本は戦争中、敵の国でしたから、日本人はとってもcruel(残忍)で、嘘を言う人たち、そしてtrust(信用)ができない、という気持ちがカナダ人にありました。日本人を国から出したい、と人たちがいて、皆仕事をやめさせられました。私たちは山の中の強制収容所に入れられます。そして、その後、日本人はカナダの国じゅうに散らばされます。私たちの家族はサトウキビ大根の畑で強制労働をさせられます。
木 藤 そうですか。コガワさんの作家としての原点もそういうところにあるのでしょうか。
コガワ そうです。そういうことですね。
木 藤 このデビュー作「失われた祖国」はカナダ文学賞、全米図書賞、日本翻訳功労賞などを受賞した素晴らしい作品ですが、次にお父様の中山吾一さんについて教えていただけませんか。大洲市のご出身で、カナダではキリスト教の牧師として活躍されたということですね。
コガワ はい、父はもともとお医者さんを目指していました。だけど、最初の子供が生まれたときに死んでしまいます。そのことから、「体でなく心を助けてあげる仕事」をしたくて牧師になった。そして、人を助けてあげることが仕事になった。戦争でばらばらになった人と一生懸命コミュニケーションしたり、本を出したり、新聞や雑誌に書いたりしました。
木 藤 そのお父さんのふるさとは大洲市の山間集落の蔵川にあり、きょう訪問されるそうですね。お父様がお生まれになった家がそのまままだあるのですって?
コガワ はい、あるらしいです。写真は見ましたけれど。
木 藤 どんな思いでしょうね。そこに立たれたら「ああ、お父さんはここで生まれたのだ」ということになるでしょうね。楽しみですね。
コガワ はい、(笑い)そうなのです。
木 藤 あすは松山で講演も予定されています。どんなお話をされるのですか。
コガワ お父さんのexperience(体験)や私のfamilyのこと・・・。そして、今度長崎に来て原爆の意味が分かってきた。本を書いたときには全然その意味が分からなかったけれど、ようやく分かってきたのです。その原爆の話も少しします。
木 藤 この「失われた祖国」は長崎の原爆のことが書かれていますが、その意味が今ようやく分かって来たと言われるわけですか。
コガワ はい。そうなのです。書いているときには何を書いているのか、その時は分からなくても、私の目は前でなく、後ろにあるので(笑い)、ようやく分かったということです。
木 藤 あしたの講演会の前に、それはどういう意味であるのか、教えていただけませんか。
コガワ ああ、それは長い話になります(笑い)。
木 藤 それは公演会でお話される、ということでしょうか。その講演会ですが、あす21日午前11時から、東京第一ホテル松山で開かれます。主催は愛媛県海外協会、共催はカナダ友好協会松山支部。無料で、だれでも出席できるということです。たくさんの方に聞いていただけるといいですね。
コガワ はい。そうです。
木 藤 さて、最後に、地球はますます狭くなって、人や情報が行きかうという時代になりました。コガワさんから現代に対するメッセージをお願いできますか。
コガワ to the world ?
木 藤 はい。ぜひお願いいたします。
コガワ とてもシンプルなメッセージですが、敵のなかに一番大事なお友達が隠れています。敵を殺すことは一番大事なお友達を殺すことになる。それが長崎の意味だということです。原爆で「隠れキリシタン」が殺されたでしょう。あの人たちはアメリカの一番大事なお友達。その意味で、私は今ごろ敵のなかにお友達がいるということを考えています。
木 藤 敵のなかにお友達がいる・・・なるほどですね。これがまさに現代に対するメッセージですね。まだまだお話をおうかがいしたいのですが、時間のほうが来てしまいました。お話の続きはあしたの講演会ということになります。たくさんの方に来ていただきたいですね。きょうは素晴らしいお話をありがとうございました。
コガワ ありがとうございました。 
写真=カナダ友好協会の井上貴美子松山支部長とくつろぐジョイ・コガワさん(左)=松山市花園町のラーメン店「瓢太」で。